ラピュタ・アカデミック

従来にない形で、ラピュタの物語と登場人物の心底を考察する

第6章 シータに関する考察。(中編)

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 前回にひき続きシータを考察する。
 シータ考察で欠かせないと思うのは、タイガーモスでのパズーとの見張りのシーンである。このシーンは当記事でも3回は取り扱う。シータがパズーに話す内容ははっきり言えばトップシークレットであり、それこそ、生涯を共にする事を意識する者にしか話せない様な内容なのである。勿論、滅びの言葉を使う為の布石も含まれてはいるが。
 こういったシータの心底を踏まえた上で、難題を考察していきたい。

 ・本当にシータは「強か」なのか?

 最近よく、某プロデューサーのラピュタに関する解説があると聞くが、その中にシータがパズーに助けられてからタイガーモスの厨房で働くシータのシーンが引用されている。長いので重要部のみ抜粋する。
「シータは最初と比べると、言い訳出来ないくらい胸が大きくなってて、もうこういう風に描かないと気が済まないからなんです。この時点でシータは女である事を利用し始め、その象徴として胸が大きくなってるんですね。
 監督は女性の凄さもちゃんと描く作家なんです。
シータを一目見て可愛いと思ったドーラの息子達が働いてるシータの元へ、何か手伝う事ない?と次々に言いに来て、結果全員が彼女にこき使われるシーンがあります。ここで重要なのは、監督はシータの表情を見せないんです。今時のアニメなら表情を見せた上で、お願いしちゃった。テヘッとか、そんな事全く考えてない天然なんです。みたいなやり取り
をさせるんですが、監督はどちらもやらない。シータの後ろ姿を見せる事しかしないんです。これで、シータは船の中で自分がモテているのが解っているからこそ、他の男に次々と仕事を頼んている事が暗示されるんです。でも、パズーを呼んだりはしない。自分が惚れた男だから。つまり、自分が惚れた男はこき使わず、自分を勝手に好きになったどうでもいい男はこき使うという事をやってるんです。
 シータは観客の男の子が憧れる存在だから、監督も男を利用しているとは描かない。でも後ろ姿だけはちゃんと描くという意地悪さは持っているんですね。」
 これに対する私の感想はずばり、「はあ!?」であった。(笑)ひとまず、この解説の駄目な所を指摘していくとする。
①まず、シータは胸が大きくなったのではなく、ワンピースからドーラのお古に着替えた事でスタイルが強調されただけである。この説は全く女性の事を理解してないのがバレバレである。
②シータが女である事を利用してるとあるが、まだ13歳の少女である事が完全に抜けてしまっている。そもそも①が否定されているので理論破綻であろう。シータは自分の心を写す鏡というのがこの説にはよく当てはまりそうだ。
③完全にシータがモテているシーンとして捉えているが、そもそもこのシーンの始まりは海賊のルイの登場シーンから始まっている。ルイはシータを襲おうとしてすぐ別の海賊に気付くシーンもある事から、シータがモテてるシーンでなく、海賊達の間抜けだけど何処か憎めない所を描いたシーンと解釈するのが自然である。
④パズーを呼んだりはしない、シータが惚れた男だからとあるが、これを立証するものは何一つ無い。そもそもこんな突拍子もない説が出るのは、この方がシータがあざといという先入観があり、それを正当化する為の飛び道具として唱えているふしがある。それに海賊に手伝ってもらいながらもシータは手を休めてないので、それ程シータの厨房の仕事が多い事が想像出来るし、もしパズーがいたら同じ様に手伝って貰っていた可能性があるが、それに関しては一切の言及が無い。非常に強引さを感じる説だ。
⑤シータが表情を見せていないとか、後ろ姿しか見せないと言っているが、完全に理論破綻である。何故なら、真実ならカットが切り替わるまで徹底的に後ろ姿しか見せない筈だ。監督は中途半端な事を嫌うのである。第4章のパズーが毅然とした顔をするシーンの説明でお解り頂けるだろう。しかし実際は、この後アンリがやって来て「あーっ!」て感じて顔を見合わせるがその時にシータは振り返っている。タイトル下の写真の場面が動かぬ証拠である。シータの表情が何も意図してない感じなのがお解り頂けるだろう。
 更に1番致命的な事を指摘する。
⑥シータは船の中で自身がモテていると解っているとあるが、シータにしてみれば船の中でモテていようがそうでなかろうがどうでもいい話なのである。何故ならシータはパズーひとすじ。嘘をついて別れを告げたのに決死の思いで助けてくれたのだから、余計にその気持ちが増してるのは簡単に想像がつく。現にパズーと離されて不安にしていたし、パズーに会えるチャンスが来るや一目散に見張り台へ行っている。
 シータがまずしたかった事は明白で、映画にある通りパズーに相談したかったのだが、仕事を与えられているのでひとまず取り組んでいたのである。この解説はこういったシータの心底を全て無視しており、自身の勝手な女性観を監督がこう描いてるんだと話をすり替えているに過ぎない。
 思い付くだけでもこれだけの穴があるのだが、更に驚くのは、この説を何も考えず鵜呑みにしてる方が沢山いらっしゃる事である。現に、この説明を鵜呑みにした方でシータを性格ブスと断定していた方がいた。私は持論で反論したのだが、まともな回答は返って来ずじまいだったので、何も知らないで書いたのだろう。
 皆さんは、ジブリ面接のトトロ肉食獣の逸話をご存知だろうか。現在アニメーターでご活躍されてる方のお話で、ジブリの集団面接でトトロの話になり、監督がこう仰ったのである。
「トトロはそんなに可愛い生き物ではないんですよ。トトロは肉食獣で、サツキとメイはたまたまトトロがお腹一杯だったから運良く食べられなかったんです。」
勿論監督の嘘なのだが、この事に感想を求められ、他の方はショックだとか面白かったとか仰ってたが、その方だけは事前に観察していたので、
「トトロは臼歯ではありませんか?草食動物ですよね?」
と答え、この方だけが受かったのだ。監督に言わせると、エンターテインメントを目指す方は人の話を鵜呑みにするのではなく自分で考え、しっかり観察する事が重要だという事なのである。
 前記のプロデューサーの話を鵜呑みにされる方々がもしジブリ面接を受けたら全員落第であろう。情報をそのまま素直に取るのは楽だし、理解した気持ちになるが、そういう人達は真実や真理は解らないままなのではないか。
 では、シータに強かな面は無いのかというと、実は存在するのである。見張り台を凧にしてラピュタ探索をする際、ドーラにシータは戻ってくる様言われるがシータは断り、パズーに「お願い!」と言った後、ドーラに、
「パズーもそうしろって!!」
と言う所である。何と、そう言ってないパズーをダシにしてしまったのだ。これは強かと言わざるを得ない。しかし微笑ましいシーンであり、シータが強かだけど非常に可愛らしく見えるシーンである。兎に角パズーと少しでも一緒にいたいというシータの一途さをも表現しているシーンなのだ。因みに、未来少年コナンにもこれとよく似たシーンが存在する。シータにとってパズーは、歌の文句を借りて言えば将に、「貴方だけが the one that I adore」 なのだろう。
 この例で御覧頂いた様に、シータは意外と多面性がある。(海賊を誑かすという意味ではない。くれぐれも誤解されない様に。)元々宮崎アニメにはテンプレ通りのお姫様は存在しないのである。もし私がパズーだったら、シータはつまらないどころか、今度はどんな一面を見せてくれるんだとドキドキしそうである。

 物語において登場人物の心底は大事。心底は行動原理に直結する。この事が少しばかりでもご理解頂けただろうか。心底を無視した仮説というのは的外れな結論しか出さないものである。
 しかし、こちらの題を取り上げると決めた時から嫌な予感がしていたが、この題だけで半端ない容量になった為、予定変更でこちらを中編とし、さらに後編を設ける所存である。